そのタスクに「作戦名」を。 ―見えない裏方から頼れる戦友に変える魔法―

2026年5月7日

1. 「情シスは何をやってるかわからない」という壁
情報システム部門の仕事は、得てして「動いていて当たり前、止まると怒られる」という宿命を背負っています。

大規模な基幹システムの刷新であれば、社内でも「〇〇プロジェクト」として華々しく認知されますが、私たちの日常の多くを占めるタスクは、もっと泥臭く、トラブル対応などがメインだと思います。

「昨日まで動いていたものが、ある日突然、広範囲で動かなくなる」

こうした突発的かつ同時多発的なトラブルの最中、ユーザーとの温度差に悩むことは少なくありません。こちらが裏側でどれほど複雑な原因究明を行い、過去の資産との整合性を確認していたとしても、ユーザーに伝わるのは「直った」という結果だけ。
これでは、情シスの専門性や苦労が理解されず、心理的な距離はなかなか縮まりません。

2. 「佐藤さん現象」からの脱却
複数拠点で同時多発的にトラブルが発生した際、最初の報告者の名前から「佐藤さん現象」などと呼んでしまいがちです。
情シス内部で状況を把握するには便利な通称ですが、これをそのままユーザーとのコミュニケーションに使ってしまうと、いくつかの弊害が生まれます。

まず、佐藤さん以外の人には何のことかさっぱり分かりませんし、何より「佐藤さんという個人の環境の問題」であるかのような印象を与え、事態の緊急性や本質が伝わりにくくなってしまいます。
佐藤さん本人にとっても、自分の名前が不具合の代名詞になるのは決して気分の良いものではないでしょう。

そこで提案したいのが、こうした小さな案件や多発案件にこそ、「作戦名(オペレーション名)」をつけるという試みです。

3. 世界を動かす「コードネーム」の戦略
「作戦名をつけるなんて、少し遊びすぎではないか?」と思われるかもしれません。
しかし、ビジネスの最前線において、プロジェクトに名前(コードネーム)を与えることは非常に一般的かつ強力なマネジメント手法です。

その代表例が、GoogleのAndroid OSです。
かつてAndroidは、バージョンごとに「Cupcake(カップケーキ)」「Donut(ドーナツ)」「Oreo(オレオ)」など、アルファベット順にお菓子の名前をコードネームとして採用していました。

しかし、Android 10からは表向きには「お菓子の名前」を廃止し、シンプルな「数字」へと切り替えました。
その理由は下記の通り、極めて現実的でビジネス的な判断でした。

・グローバル視点:馴染みのないお菓子名は混乱を招く恐れがある
・ブランドの信頼:間違いなく伝わるプロフェッショナルなイメージを優先

一方で、面白い事実があります。
Googleは「開発チーム内部」では、今でもお菓子のコードネームを使い続けているのです。
これは、「対外的には分かりやすく(数字)、内部では結束を高めるために(お菓子)」という、戦略的な使い分けをしているのです。

4. 具体的な「作戦」のエピソードと再発への備え
私たち情シスも、「使い分け」の知恵を借りてみましょう。

【ケースA:継ぎ足し運用、秘伝のマクロの復活】
「10年前から使っている集計マクロが動かなくなった」という、よくある悲鳴。
これをただ「Excel設定変更」と呼ぶのではなく、「『秘伝のマクロ奪還作戦』として、今日中に決着をつけましょう」と伝えます。
情シスが自分の業務の重要性を理解してくれたと感じたユーザーは、検証作業にも驚くほど協力的になってくれるはずです。

【ケースB:Wi-Fiの孤島、電波救出レスキュー】
「会議室の奥の方だけ、なぜか時々ネットが切れる」という地味な案件。
これを「会議室・電波不毛地帯撲滅作戦」と銘打ってみます。
状況を可視化することで、ユーザー側も「あ、今あそこを調査してくれているんだな」と連帯感を持って見守ってくれます。

【ケースC:再発を「モチベーション」に変える「シーズン2」】
残念ながらトラブルには再発がつきものです。しかし、同じ問題が起きたとき、「また佐藤さんの件か……」と肩を落とすのはもったいない。
かつての作戦が再発したなら、「『マクロ復活作戦』シーズン2、開幕ですね!」と向き合ってみましょう。
映画の続編のように扱うことで、担当者としても「前回のデータがあるから、今回はもっと早く解決できるはずだ」と前向きなやりがいを感じられるようになります。

そして発生原因の真因を掴めたとき、その解決劇は「エピソード0」へと昇華するはずです。

5. 運用上の注意点:作戦名にも「TPO」を
ただし、Googleが「お菓子」から「数字」へと表現を変えたように、私たちもTPOをわきまえた「使い分け」が必要です。

現場の気心の知れたメンバーであればユーモアも効きますが、相手が役員や「偉い人」の場合は注意が必要です。
あまりにふざけた名前をつけてしまうと、「こちらは深刻なのに、情シスは遊んでいるのか」と逆鱗に触れかねません。

・現場では: ユーモアのある「作戦名」で連帯感を。
・上層部へは: 「第1次セキュリティ基盤強化オペレーション」など、プロフェッショナルな響きを。

「表向きは数字や正式名称で報告し、チーム内や協力的なユーザーとの間では作戦名で呼ぶ」といった、Googleのような使い分けこそが、真の「情シス・プロフェッショナル」への道と言えるでしょう。

おわりに
情シスの仕事は、目に見えないコードや電波との孤独な戦いになりがちです。
しかし、その先にいるのは常に「人」です。
「作戦名」というラベルを貼ることで、私たちは無機質な「タスク」を、社内のみんなと共有できる「ミッション」に変えることができます。

情報システム部門としての私たちの役割は、単にPCを直すことではなく、ITを通じて現場の「できない」を「できる」に変え、会社の明日を支える土壌を作ることにあるはずです。

あなたのデスクに届いたその相談、次はどんな作戦名を授けますか?
さあ、私たちの「情シス理解浸透作戦」、ここから開始しましょう。

森 厚
製造会社システム企画担当


ソフト開発会社にて、制御ソフト開発にSE・PGとして従事する。
2013年から社内情シスとして主にセキュリティとインフラを担当。
社内IT教育や各種ツールの導入はじめとした、ITを用いた業務効率化を担う。

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